[四国EPO・四国ESDセンターが、みなさんにおすすめしたい!と思った事例をご紹介していきます]
地域から始まるローカルSDGs「ガァリック娘」で目指す地域課題の同時解決!
全国3位のにんにく生産量を誇る香川県。中でも琴平町では香川県産にんにくの中心的な産地として栽培が行われている一方、規格外で出荷されず、廃棄されるにんにくが年間約7トン発生していました。障がい者の雇用及び賃金アップを解決したい琴平町社会福祉協議会は、野菜を使った特産品の創出を目指す琴平町と連携し、同町内での商品開発への試みがスタートしました。
琴平町社会福祉協議会は、農商工連携にかかるマッチング活動をきっかけとして、生産者と協議を行い、形や大きさ、色など規格に満たず廃棄されるにんにくを市場価格より少し高い金額で買い取ることになりました。また、木のおもちゃ製作を主な事業としていた町内の障がい者福祉サービス事業所「ねむ工房」が、玉割り、皮むき、スライス、冷凍などの1次加工を担い、ガーリックオイルの地産地消を目指す高橋商店との連携でガーリックオイルが誕生しました。まずはサンプル品10kgの納品に向けて、町の調理室での試行がスタート。当初は障がい者に作業が担えるのか不安視する声もありましたが、丁寧かつ確実に作業を進める姿を見た担当者や生産者の確信を得るとともに、納品の品質もクリアし、100kg、200kgと受注量の増加につなげていきました。その後、調理室での製造では間に合わなくなったため「ねむ工房」の事業所内で、にんにく加工が行えるように整備されました。
障害のある方たちがにんにくの加工を行う上で、課題と感じていた手荒れや効率性に配慮し、玉ねぎの皮むき器を製造している会社に、にんにくの皮むき器のアレンジを依頼、また安全面から包丁の使用を避けるために、にんにくの根を切るステンレス性の爪切りのような道具を鉄工所に製作してもらうなど、多様な主体の協力を得ながら、設備等の整備を進めました。また、商品化に向けては、関係者が地元高校に出前授業に赴き、想いを伝えていたこともあり、デザイン科の生徒にネーミング・ラベル制作のアイデアを募り、ついにガーリックオイル「ガァリック娘」が誕生しました。一次加工を担う障がいを持った人たちに、工賃が支払われる仕組みが生まれたことで、地域の作業所での活動が生まれ、現在も8名の雇用が維持されています。結果として年間7トンほど発生していた食品ロスの削減にも寄与する結果となりました。
一方、「ガァリック娘」を製造する工程で、新たににんにくの残渣が2-3トン程、発生するようになっていました。オリーブオイルで加熱したにんにくを絞った後の残渣には風味や食味が残っていること、SDGsに取り組む企業から商品化に取り組みたいとの打診もあり、社会福祉協議会としても、8050問題や引きこもり、コロナ禍で働きたくても働けない人が柔軟に働ける場をつくりたいとの思いから、地産地消・アレルギー物質や添加物を使用していない商品として付加価値も確認した上で、2021年4月から新たな商品開発に取り組むこととなりました。
この流れを受け、企業と社会福祉協議会に加え、にんにく生産者を交えた検討会が発足。油から残渣を引き上げた後の冷やす工程で、残渣が塊状に硬化し、粉砕が困難な副産物になることから、ガァリック娘の商品化にも関わった町内の鉄工所も協議の輪に加わりました。塊状に硬化した副産物を砕くための機械の試作や調整、意見交換、改善を繰り返す一方、企業では副産物の酸性劣化が進んでいないかの検証が進められました。5回の試行を繰り返し、ようやく機械が完成。再度、検討メンバーで工程の確認を行った結果、「粉砕作業→ふるい掛け作業→袋詰め作業」において長時間の作業が難しいことから、「ふるい掛け」の機械も製造し、残渣から新商品「どこでもガァリっ子」が誕生しました。商品開発、製造に関する一連の仕組みができたことにより、社会福祉協議会としても、更なる雇用を確保することができました。現在、「どこでもガァリっ子」は、地元の物産店、ホテルや旅館等の観光協会と商工会との連携により販売され、「ガァリック娘」を凌ぐ勢いで人気を集めています。両商品の販売で得らえた収益は、全て琴平町の地域福祉に還元されており、今後は、雇用を継続するための販売量増加を目標としています。
地域の特産品を活用し、開発された「ガァリック娘」、「どこでもガァリっ子」。製造に携わるねむ工房はNPO法人格を取得。利用者は日々生き生きと加工に取り組んでいます。また、「どこでもガァリっ子」に携わる方たちの中には責任者を経て、イベントの接客ができるようになったメンバーもいます。関係者が出前授業で赴いた学校では、生徒がにんにくの植え付けや収穫作業等に参加、地域学習としての関わりも生まれています。福祉と環境、農業など多様な課題解決に向けた今後の取組にも注目です。
地域に根差すスーパーによる、サーキュラーエコノミー構築へのチャレンジ 株式会社フジ 松山デリカPC(プロセスセンター)
社会的にSDGsが意識されるようになり、各所で循環型社会への転換が模索されていますが、私たちの暮しに関わる企業では、どのような対応が進んでいるのでしょうか?
愛媛県民にとって最も身近な企業の一つ、スーパーを展開する(株)フジ。同社の松山デリカPC*は、中四国のフジ全店約100店舗で販売する惣菜(弁当、サラダ、カット野菜等)を製造しています。(*2024年3月の組織変更により、(株)フジデリカ・クオリティが親会社に統合されて同センターとなりました)
同社は、日頃より廃棄物削減への取り組みを進めてきました。中食需要の拡大に対応し、出荷量増加による工場の増設、設備更新を行うタイミングで、製造工程で発生する食品残渣を有効活用するバイオマス発電プラントを導入し、2020年2月より本格運転をスタート。中四国民間企業初となる、自社食品残渣のみを利用するバイオマス発電プラントでは、1日当り約5トンの食品残渣から約800kWh/日を発電して、電力会社に売電しています。
■食品残渣を活用したメタン発酵バイオマス発電
導入したのはメタン発酵バイオマス発電プラント。惣菜等の製造過程で出る食品残渣を破砕し、水分調整後に大きな円筒形のメタン発酵槽に貯め、有機物を分解する際に発生するメタンガスを燃料にして発電が行われます。投入する食品残渣の量や種類による負荷の変動があるため、当初は処理が安定せず、メーカーからのアドバイスを得ながら運転を行ったそうです。これまでの運転ノウハウの蓄積により、現在では安定的な稼働が維持されています。食品残渣の投入以外は、ほぼ全自動であり、処理作業の手間は省けているそうです。
このシステムの導入によって、食品残渣処理委託費約1,500万円(年間)が削減され、売電収入約1,100万円(年間)、廃液の処理費用や設備の維持費用約1,000万円(年間)との収支で、年間約1,600万円のコスト削減となり、10年強でプラント建設等の初期投資額(イニシャルコスト)が回収される目途となっています。
また、排水処理においては、2018年度に嫌気の環境下での排水処理で有機物をメタンガスとして回収するシステムを導入。メタンガスを熱エネルギー(蒸気)に転換して利用し、年間で約660万円のコスト削減効果が出ています。
■社会の反応を実感
「この工場からのゴミゼロを第一に考えており、環境負荷低減を実現していることをうれしく感じています。」と責任者は話してくださいました。
2020年度には愛媛県による優良循環型事業所として認定され、メディアで紹介される機会もあって、工場見学する自治体や企業が増え、循環型社会構築に寄与する企業として認知が高まったと感じているそうです。また、同じ認定企業との交流が進み、取引や連携へと発展しつつあり、ビジネスへの好循環も始まっています。
■さらなる環境負荷低減へ
惣菜等の販売は、売れ残りが食品ロスに直結してしまいます。そこでAIによる販売量の需要予測システムを導入し、AIの予測を基に販売計画を日々調整することによって、廃棄量を減らす効果を上げ、環境負荷低減に貢献するとともに、利益の確保につなげています。
さらに、食品トレーの重量削減による廃棄プラスチック削減にも取り組んでいます。同社も加盟する(一社)日本惣菜協会など業界団体や同事業者間でも、食品ロスや廃棄プラスチックの削減に取り組み、新技術の導入やノウハウの共有が進められているそうです。
社会やライフスタイルの変化に対応し、同社の惣菜製造事業は拡大しながら循環型社会構築に向けた多様な取組を展開していました。私たち消費者もこれらの取組を知り、相乗効果が高まるように、日々の「食」における行動を見直したいと感じました。
環境で大月町を元気にしたい
高知県の最西端にある幡多郡「大月町」。環境省の事業である「地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」が、2022年度からこの町で展開されています。この事業は「環境で地域を元気にする」というコンセプトです。
大月町は海岸部を中心に足摺宇和海国立公園に指定されており、透きとおるように青く美しい海と色とりどりのサンゴ礁に出会える「柏島」をはじめ、「樫西海岸」や「大堂海岸」など海の絶景が拡がります。その豊かな海を支えるのに欠かせない存在である森林は、豊かな栄養分を海へと注ぐ役割を担っています。
大月町では、この森林を舞台に官民が連携して様々な取組を進めています。広葉樹活用学習会やチェーンソー安全講習、薪の販売講習会、自伐型林業研修など、「山に興味を持つ人を増やす」ことがそれぞれの取組の目指すべき目標になっています。
いきなり山の仕事だけで生活が成り立つ人は難しいかもしれませんが、お茶をつくったり黒炭を焼いたり、子どもたちに体験の機会を開いたり、家具をつくったり、チェーンソーを使って作業をする人など、学びと実践を通じた輪が広がっています。「ぼちぼち林業」「山業(さんぎょう)」を増やすという、大月町ではじまった取組に注目しています。
「地域循環共生圏づくりプラットフォーム事業」について詳しく知りたい方は下記HPをご覧ください。
http://chiikijunkan.env.go.jp/tsunagaru/