[四国EPO・四国ESDセンターが、みなさんにおすすめしたい!と思った事例をご紹介していきます]
高齢者施設が「子どもの居場所」に!多世代交流で育む地域の絆と未来
香川県高松市、丸亀市、観音寺市でデイサービスなどを提供する社会福祉法人、光志福祉会が運営する高齢者施設「ネムの木」。
高齢者施設と聞くと、静かに余生を過ごす場所というイメージを持つ方も多いかもしれません。
しかし、ここ「ネムの木」では、夕方になるとランドセルを背負った小学生たちが「ただいま!」とやって来て、施設を利用する高齢者や職員、別の学校の子どもたちと交流したり、宿題をしたりして思い思いの放課後を過ごしています。
そんな温かい「多世代交流」が日常の風景として広がる「ネムの木」では、なぜ、高齢者施設で子どもの居場所づくりに取り組むようになったのでしょうか?

【きっかけは「子どもの貧困」と「見えない課題」】
「ネムの木」が子どもの居場所づくりをスタートさせたのは2021年4月。
最初は高松市の円座(えんざ)地区で開始し、その後、丸亀市、観音寺市の事業所にも活動を広げました。
きっかけは、「子どもの貧困」という社会課題への気づき。「日本では子どもの7人に1人が社会的貧困状態にある」という現実に衝撃を受け、自分たちが運営する高齢者施設のスペースや機能を活用して何かできないかと考え始めたといいます。
また、不登校や引きこもりの支援を行う中で、発達障がいや境界知能(グレーゾーン)と呼ばれる子どもたちが、安心して社会経験を積む機会が限られることから、生きづらさを抱えやすい現状に直面していることがわかりました。「学習支援だけでなく、多様な人と安心して関わる経験こそが必要」という想いが、現在の活動の原点となっています。

【「子ども広場・食堂・教室」の3本柱】
現在、ネムの木の施設では主に3つの活動を行っています。
1.ネムの木 子ども広場 (丸亀、観音寺、高松の施設で開催)
平日の放課後と土曜日に、デイサービスセンターのスペースを子どもたちに開放。保護者が帰宅するまでの間、安心して過ごせる「居場所」として、子どもたちは宿題をしたり、お年寄りとおしゃべりしたり、施設内でタオルたたみや、チラシを折ってごみ箱づくりをするなどのボランティアをして過ごします。
2.ネムの木 子ども食堂 (丸亀・観音寺の施設で開催)
毎週水曜日の夕食時に開催。学校も違う子どもたちが、一緒に食卓を囲みます。食後は、広いホールで卓球やバスケットボール、ボードゲームなどを楽しみます。毎月第4水曜日には、入所施設のお年寄りとゲームやジェスチャーなどをして交流を深めます。
3.ネムの木 子ども教室 (丸亀・高松の施設で開催)
英語教室やダンス教室、習字・硬筆教室などを実施。2023年に改修した丸亀市のデイサービスセンターには、ダンス教室でも使える一面鏡張りの部屋を整備しました。また、2026年1月から、高松の施設で硬筆教室を開始しました。

【多世代交流が育む「非認知能力」】
取組の中で特に強調されていたのが、「非認知能力」の重要性です。テストの点数や偏差値といった「認知能力」とは異なり、「非認知能力」は忍耐力、協調性、感情のコントロールなど、社会を生きていく上で不可欠な力のことです。
近年、核家族化や共働きの増加で、子どもたちが多様な大人と関わる機会が減っています。ここでは、親や先生以外の大人、特におじいちゃん・おばあちゃんと関わることで、叱られたり、褒められたり、時には空気を読んだりと、自然と人間関係を学べる環境があります。
実際に子ども広場のボランティアをしてポイントを貯めて、好きなものを買うといった経験もそのひとつ。かつて日本のどこででも見られた懐かしい光景が、今も息づいています。

【お年寄りや職員に生じた「良い変化」】
この交流は、子どもたちだけでなく、施設を利用するお年寄りや職員にも変化をもたらしています。
施設利用者は「子どもは来るだけで宝」と普段は見せないような満面の笑顔を見せ、生活にハリが生まれています。
また、職員にとっても職場に子どもの笑い声が響くことで雰囲気が明るくなり、「働きやすい」「癒やされる」と好評を得ています。

【地域を巻き込む「ネムの木マルシェ」】
年に一度、秋に開催される「ネムの木マルシェ」も大きな特色です。
キッチンカーやワークショップ、子ども教室で学んだダンスを披露するステージ発表などがあり、保護者も子どもたちの成長を実感できるイベントとなっています。
イベントでは、仕入れたジュースを子どもたちが実際に販売する模擬店もあり、子どもたちの「非認知能力」を高める工夫がされています。
また、売上は高齢者との交流グッズの購入に充てるなど、一部子どもたちにも還元されています。
このように、普段の取組から季節のイベントまで、子どもと大人が一緒になって交流する「ネムの木」を中心に地域の環は広がっています。

【最後に】
「福祉の仕事をしていると、どうしても閉鎖的になりがちですが、地域に開かれた施設でありたい」。
そんな想いが形となり、「ネムの木」では子どもたちの笑い声が響き渡っています。ここにあるのは、閉ざされた空間ではなく、多世代が自然に行き交う温かな日常です。
核家族化が進み、地域での関わりが希薄になる現代において、親以外の大人、それも人生の先輩である高齢者と接することは、子どもたちにとって得がたい経験です。学校のテストでは測れない「生きる力」が、この場所での交流を通じて確実に育まれています。
そして、この活動は未来への種まきでもあります。
かつて通っていた子どもが高校生ボランティアとして戻ってきたり、将来福祉の仕事に興味をもったり、地域とつながり続ける「好循環」が生まれるのではと夢が広がります。
少子高齢化が顕著な四国において、高齢者施設が地域のハブとなり、子ども、高齢者、地域住民をつなぐ「ネムの木」の取組は、単なる居場所づくりだけでなく自分が育った地域を愛し、支える人材を育む、まさに持続可能な地域づくり(ローカルSDGs)そのものではないでしょうか。高齢者が子どもを見守り、子どもが高齢者に元気を届ける。 「ネムの木」で起きている化学反応は、これからの日本が目指すべき地域共生社会の希望と言えます。

【施設情報】 社会福祉法人光志福祉会(ネムの木)
- 住所:香川県丸亀市川西町南258-1
- Webサイト:https://www.koushi-f.or.jp/
※写真提供協力(社会福祉法人光志福祉会)
環境再生型農業+バイオ炭活用により、循環を育む柑橘栽培へ
四国最西端・佐田岬半島の自治体、愛媛県伊方町。宇和海側に面した名取地区において、除草剤を使わず、バイオ炭を製造して土壌改良に活用し、農薬や肥料に頼らない柑橘栽培が注目を集めています。

宇和海を望む名取地区の柑橘園地
その担い手である「ユウギボウシ愛媛」*では、柑橘栽培での除草剤を約20年前からやめ、10年前から肥料・農薬も段階的に減らしていったところ、草をコントロールしやすくなったといいます。草をカバークロップ*として使うことによって肥料・農薬を使用しない「草生栽培」を確立。食味も年々向上し、予約購入を希望する顧客が増えているそうです。
佐田岬半島の柑橘園地では、柑橘の剪定枝や防風林として植えられているスギやマキの間伐材が発生します。ユウギボウシ愛媛では、それらを焼却し、灰や炭を園地に入れたところ、土に良い効果があることを実感して炭づくりに関心を持つようになり、園地で安全に炭を生産できるユニット式炭化炉に着目しました。令和7年度愛媛県ゼロカーボン・ビジネスモデル創出事業に採択され、8月に県からユニット式炭化炉の貸与を受け、耕作放棄されていた柑橘園地を開墾して設置にこぎつけました。400キロの木材からバイオ炭製造に要する時間が7時間と、効率的に炭づくりができるそうです。

ユニット式炭化炉
現在炭づくりに参加している地元農家は4戸ですが、近隣の人々も炭づくりとその活用への関心が高く、進捗が見守られているそうです。さらに、地元の三崎高校の生徒が、炭を2~3㎝のサイズにして園地に入れる場合、表面に播くのと土中に入れるのといずれが良いかを実験したり、愛媛大学の学生が園地の整備に参加したりと、若い世代が土づくりや農業を体験する場ともなっています。
また、土壌中の有機物を高める農法を研究している茨城大学農学部教授と学生が、カバークロップやバイオ炭を撒くことによる土壌微生物や炭素貯留の増加を検証するため、ユウギボウシ愛媛の園地の土壌をサンプリングし、科学的なデータの分析を行っています。2025年6月の土壌分析の結果、ユウギボウシ愛媛の園地では周りの畑に比べてかなり多くの炭素が貯留されていることが判明しています。その後バイオ炭を投入したことによって、さらに炭素が増加していることが期待されるそうです。

茨城大学の皆さんが土壌調査を行っている様子
すなわち、ユウギボウシ愛媛の園地では、除草剤を使用しないカバークロップによる農法によってCO2排出を抑制し、バイオ炭が土壌中で炭素を長期間貯留するとともに、土壌改良を促進すると考えられています。これらにより、気候変動を緩和し、生物多様性が保全され、持続可能な農業・地域づくりにつなげる展開を見据えています。
ユウギボウシ愛媛では、これらの取組・情報を可視化して伝えることが必要と考え、「植物たちが根でつながっているように、“根”でつながる社会をつくることが大切」という想いから、「ねのわプロジェクト」をスタートさせ、次の柱を設定しました。
① バイオ炭づくり~土壌と森を再生し、地域の循環を取り戻す
② 教育プログラム~土壌再生の過程を共に体験する学びの場づくり
③ 地域コミュニティ~従来のテロワールに土壌の価値を加味したエシカルテロワールをコミュニティに広げる
④ 経済・商品~地域の資源を活かす経済循環の創造
これらの柱それぞれに、地域の人々や専門家との連携を広げ、深めながら活動を進めています。そして、各地でこの環境再生型農業+バイオ炭の農法が導入され、地域固有のエシカルテロワールが育まれることを目指しています。

ユウギボウシ愛媛の柑橘(清見タンゴール)園地
*ユウギボウシ愛媛:柑橘農家、宮部元治氏の園地の屋号。現在1.6haほどで柑橘を栽培しており、近隣農家からの依頼を受けて管理する園地が増加している。
*カバークロップ:主作物の休閑期や栽培時に、土壌浸食の防止や土壌への有機物の供給などのために、畑の空いているスペースに栽培する植物
会社の中に駄菓子屋さん?建設会社の「お節介」な取組
「このお菓子いくらですか?」「全部で120円だよ」
建設会社の事務所とは思えない、会話が聞こえてくる。
徳島県西部のつるぎ町で建設業を営む株式会社井上組の事務所には駄菓子コーナーがあり、学校帰りの子どもたちや地元のおばあちゃん、子ども連れの家族などが駄菓子を求めてやってくる。
井上組が駄菓子コーナーを設置したのは、地域から駄菓子屋さんが無くなったこと。はじめは机を1つ置いて、そこに駄菓子を並べていただけだったものが、メディアでも取り上げられるようになり、認知度とともに商品バラエティーも充実していった。

駄菓子コーナーの様子
また、駄菓子コーナーを設けたことで、災害時に役立ったこともある。豪雪に見舞われ、食料品が手に入りにくくなった時、災害復旧に務める人たちの非常食として使用された。

事務所の入口には、地域の見守り活動として扉のポスター横に「こどもをまもる家」の掲示がある
事務所には遠足前になると多くの子どもたちが駄菓子を買いに来る。普段から駄菓子屋に来る子どもたちは、ただ駄菓子を買うだけでなく、そこで友達と喋ったりカードゲームで遊んだりしている。子どもたちにとってこの場所は、日常の中にある当たり前の“居場所”としての役割も果たしている。

半田そうめんの産地ならではの地域産品
だれもが気軽に足を運べる駄菓子コーナーが、平時の子どもたちの居場所づくりや、災害時の備えにも発展してきた「お節介」活動。地域のつながりを育み、コミュニティの持続性を高め、会社の基盤を強くしていく。そんな素敵な循環を見つけることができる井上組に、皆さんも駄菓子を買いに行ってみませんか?と私たちもお節介をつなげていきたい。



