榧(かや)
(株)高知前川種苗会長 前川穎司さんは、趣味の囲碁が高じて碁盤の材料である「榧」の美しさに惚れ込み、高知と徳島の山にこれまでに10万本以上の苗木を植えてきました。榧の寿命は1,000年に及びます。しかし、杉やヒノキに比べて成長が遅く、成木になるまでには300年かかるため、雑草や他の木が伸びて陽光が遮られると枯れてしまいます。また、香ばしい果実は野ネズミの、やわらかい苗木はウサギの、若木はイノシシやシカの大好物。植えたら食べられの終わりのない競争を繰り返しながらも、前川さんは手間を惜しまず、丁寧に世話を続けています。
榧は、上品な光沢のあるきめ細かい木目と、ほど良い硬さを持っています。独特の弾力は、碁盤や将棋盤などで高く評価され、使い込むほどに美しい飴色に変わり、風格を増します。また、古くから水に強く腐りにくいことで知られ、家の土台や風呂桶、船の材料などさまざまな生活シーンで使われてきました。天然の殺菌作用を持ち、まな板や箸など、清潔さを求められる食まわりの品々にも適しています。
成長に時間がかかるだけでなく、伐採してからも、製品になるまでにかかる時間は15年と、大変な時間と手をかけて成長する木ですから、一般に流通せず、1990年代後半には中国も輸出を禁じて榧材が市場に出回ることはなくなってしまいました。(榧は世界で7種類あり、中国4種・アメリカ2種・日本1種)かつては日本の山に自生し、農家の庭先などにも植えられ古くから木材や果実が身近に利用されてきた榧。300年という長い時間をかけて大きく育つ榧の木は、日本の文化を伝える貴重な存在といえます。
端が見えないほど広い山の畑に規則正しく並んだ若木の希望にみちた姿は壮観で、あまりにも美しく、前川さんの心を励まします。いつか必ず、日本の山を榧の森にすると決めたのだから、動物にも自然にも負けません。 杉やヒノキの3、4倍の時間をかけて成長する、その長い長い月日を思えば、1年の失敗など、大した事じゃない。そう言って笑って、前川さんは今日もまた、山へ行くのです。
–参考・引用–(株)高知前川種苗「榧の話。」「お父ちゃんと榧の話。」より